"The Black Album"(1994) / Prince

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これが出た'94年当時は、Prince名義としては最後と銘打った"Come"*1、3枚組のベスト盤"The Hits & The B-Sides"*2、インディからのシングル'The Most Beautiful Girl in The World’を出したりした*3時で、「とにかくWarner Bros.と契約切りたくて仕方ないんだろうなぁ」と言う焦りっぷりがモロに伝わってくる頃で。 真相としては、一旦ボツにした作品を、契約枚数消化のために嫌々ながらマスター提出したんだろうな、と言うところなんでしょうが、やっぱり絶頂期の殿下の作品なので、聴き所満載なのです。

このアルバムが制作された'87年前後、既に殿下の作り出す“リズムマシンシンセサイザーを中心にしたファンクをベースに、ロックのイデオムを取り込んだ”スタイルは、時代と合わなくなりつつあった、と言うのは殿下自身よく分かっていたと思うのです。前年の'86年、“ロックとラップの融合”である"Raising Hell" / Run-DMCや、"Licensed to Ill" / Beastie Boysが大ヒットし、殿下がThe TimeをクビにしたJam&Lewisは、Janet Jacksonの"Control"をプロデュースし、ポップフィールドに食い込みつつあった、と言う事実を目の当たりにして、世間で思われる「黒くてファンキーな音」「ポップでキャッチーな音」の境界線が変わりつつあった、と言うことを認識した殿下は、「俺がファンキーでハードエッジでカッコ良いと思う音を世に問うてやる!」と意気込んで作ったと思うのです。 後、当時の前作であった"Sign 'O' The Times"*4が、愛を内省的に歌ったアルバムだったので、その反動で“怒りと攻撃”モードだったのかもしれません。

殿下は、インタビュー等を滅多にしない人なので、以上は全くの推測なのですが、出てくる音が全てを物語る、と言うか。普通だったらリハーサルやレコーディングの最中に気付くだろう!と言うようなバランスの偏りも、含めて“らしさ”かなと思うのです。特に、ラップでラップ批判を展開する#3.'Dead on It'とか、 "motherf*cker" や "b*tch" を連発しながら、女性を監禁して殺すサイコキラーを演じる#5.'Bob George'は、それ以前にもそれ以降にも聴けない壊れた曲だし、音数を絞ってタイトさ&鋭さを増したファンクジャム#1.'Le Grind' / #2.'Cindy C.'も、テンション高い演奏なのに、妙に空しさが漂うのです。切々と歌われるバラード#4.'When 2 R in Love'、メロウな#8.'Rockhard in a Funky Place'などは、普遍的な黒人音楽のスタイルを踏襲しているせいか、今聴いても納得できるのですが、面白さと言う点では最初に述べた曲の方かな、と(勝手に)思うのです。

このアルバムをボツにした後、殿下の思う音と世間の流行はどんどん乖離して行くことを考えると、これが最後の“らしい”アルバムなのかなー、などと(勝手に)思ったりするのです。その後もレーベルとゴタゴタもめ続けている間にも、D'AngeloやMaxwellのように“殿下の音楽と精神を(勝手に)引き継ぐ”面々が現れたり、“タメの効いたビートが作れないことを逆手に取って独自に作り出したビート感”を(勝手に)引き継ぐNeptunes のような面々が現われたりするのですが、もう、こんな“ミュージシャンがネガな感情も押さえることなく、激情のおもむくままに作った”アルバムなんて、もう商業化が行き着く所まで行ってしまったR&B / Hip-Hopでは絶対、世に出すことは不可能だろうな、と考えるにつけ、「やはりワン・アンド・オンリーの存在なのかなー」とか思ったりするのです。とりあえず、これより先に聴いて欲しいアルバムは"Purple Rain"*5とか、"Parade"*6とか色々あるんですが、個人的に一番好きなアルバムはやっぱりこれでしょうね。*7