"As I Am"(2007) / Alicia Keys

As I Am: 音楽: Alicia Keys

今振り返れば、彼女の1st*1は、曲調にせよ歌い方にせよ、相当バラけていて、全然定まっていなかったのです。 歌い手の個性や感情よりも、様式を優先させてしまう(所謂)「ソウル・ミュージック」じゃなかったし*2、逆に言うと、それが得難い個性だったし、これからの未来も感じさせたし、故に素晴らしかったと思うのです。 2nd*3で、あえて「ソウル・ミュージック」の様式に正面から飛び込んで'You Don't Know My Name'や'If I Ain't Got You'と言う名曲と、ヴォーカルの機微を会得した彼女。 このアルバムは、「ソウル・ミュージック」の縛りを一旦開放し、元々持っていたミュージシャンシップと独自性を、更に進化/深化させた、と言えるのでないでしょうか。

お約束のクラシカルなピアノインスト#1.'As I Am(intro)' 〜 ('Girlfriend' / 'Karma'路線の)Hip-Hop色濃い重たいボトム/アタックの効いた#2.'Go Ahead'は、お約束のツカミですが、それ以降は、もう様々な音楽要素が渾然一体となった、「Alicia Keysの音楽」としか言いようのない楽曲で埋め尽くされているのです。

後期Beatlesっぽい#3.'Superwoman' 〜 '70sのStevie Wonder風味のアナログシンセがうねる#4.'No One' 〜 Princeを下敷き*4にした#5.'Like You'll Never See Me Again'で、いきなりクライマックスを迎え、その後にも、#9.'Teenage Love Affair'や#11.'Where Do We Go from Here'のように印象的なメロディを含む楽曲を経て、#12.'Prelude to a Kiss' 〜 #13.'Tell You Something (Nana's Reprise)' 〜 #14.'Sure Looks Good to Me'と言うドラマティックな曲3連発で大団円を迎えるのです。

聴いて感じたのが、歌の力強さと生々しさ。 ヴォーカルに、かすれやぶれなど、所々不安定に感じる箇所があるのですが、これは敢えて残したのではないかと思う位、楽曲の魅力となっているのです。 また#9のようにスィートソウル*5を下敷きにした楽曲に、あえてソウルっぽくないメロをあてはめてみたり、#11のように古いソウル経由したHip-Hop*6を、もう一度ソウル仕立てに戻してみたり、と言う、一手間かけた工夫が随所に光る感じ。 だから、パッと聴く限りでは、Hip-HopらしさもR&Bらしさも希薄なのですが、Hip-HopもR&Bも通過して、その根源にある(様式でない本物の)「ソウル」に辿り着いている感じがしますね。

1stを聴いた時に感じた、誰にも似ていない音楽と表現が出来る一人独立したミュージシャン、としての感覚はそのままに、ヴォーカル表現の強さと、曲作りのヴァリエーションを得て、更なる高みに到達した感のあるアルバム。 誰の真似でもない、おもねってもいない、高潔な感じすら漂うこの作品が、チャート初登場1位。 ミュージシャンが感じるままに作って、それが良い作品として世に認められて、売れる、こんなシンプルなことが非常に困難な時代に、これは奇跡じゃないかとすら思うのです。

*1:"Songs In A Minor"(2001) / Alicia Keys

*2:Alicia Keys - bounce.com 特集より「彼女のスタンスはどこか肉体的なファンク感覚から綺麗に開放されているのが特徴」「伝統の束縛から無意識に解かれている」

*3:"The Diary of Alicia Keys"(2003) / Alicia Keys

*4:'Purple Rain''Diamonds and Pearls''Do Me Baby'も少々

*5:'(Girl) I Love You' / The Temprees

*6:'After Laughter (Come Tears)' / Wendy Reneをサンプルした'Tearz' / Wu-Tang Clan