"1999"(1982) / Prince

1999: Prince: 音楽

前々作*1、前作*2に露だった、エキセントリックで、露悪的で、攻撃的な部分は抑制され、ポップなダンス/ソウルフルな側面が強調され、大ヒットを記録した、2枚組みアルバム'82年盤。

今になって思うと、一旦トリックスター的な振る舞いで、耳目を集めておいて、その後に、ポップな部分を前面に押し出してみせる、と言う、殿下流の戦略だったのですなぁ。 世間はまんまと引っ掛かった訳ですが。

殿下の、それまでのアップナンバーは、ドンパンドンパン(?!)の、オンビートな直接的な物か、ちょっとヒネっても8ビート的な楽曲だったのです。 しかし、このアルバムでは、Wendy & Lisaをはじめ、強力なバンド・メンバーを揃え、腰の据わったファンク・ナンバーを繰り出しているのです。

シングルカット予定のポップな楽曲は、最初の3分程度はおとなしい、シンプルな8ビートなのに、後半は、ミュージシャンの自発性に任せた、タメの効いたファンク・ジャムに突入するのが、当時の殿下流儀と言うか。 #1.'1999'や、#2.'Little Red Corvette'、#6.'Automatic'、#9.'Lady Cab Driver'はその典型ですが。 そのため、1曲が比較的長いのですが、その長さを楽しめるのが、この盤なのです。

"Prince"(1979)

愛のペガサス: プリンス: 音楽

邦題『愛のペガサス』が、今となっては微苦笑を誘うのですが、音を聴くと、そう間違ってない、と思えてくる位、全体的にメロウ&ロマンティックな1枚なのです。

1stアルバムのセールスがイマイチだったPrince(以下"殿下")が、「俺だって、ヒットなんて簡単に出せるぜ!!」と思ったのかは、今となっては謎なんですが、それ位、当時のヒット曲のフォーマット、即ち「ディスコ」と「AOR」に則した、(一見)分かりやすい楽曲が並びます。 ポップなダンスナンバー#1.'I Wanna Be Your Lover'や#8.'I Feel For You'は勿論、ギターをかき鳴らす#2.'Why You Wanna Treat Me So Bad?'や#6.'Bambi'も、ソリッドなディスコ・チューン#3.'Sexy Dancer'も、実に聴きやすくポップな印象です。

それが故にと言うか、この盤、殿下の本質「傷つきやすく、寂しがりやな僕、でも、君だけには分かって欲しい」が、特にミディアム/スローな楽曲#4.'When We're Dancing Close And Slow'や#5.'With You'、#7.'Still Waiting'、#9.'It's Gonna Be Lonley'で大全開になります。 次作*1以降露になる、エキセントリックだったり、攻撃的だったりする部分は、全くないのですが、だからこそ分かる本質と言うか。 この時点で、ヴォーカル/リズムアレンジの才覚/イントロ〜リフ作りの上手さは完成されているので、殿下の音楽を知りたいなら、この盤、必携でしょう。

"As I Am"(2007) / Alicia Keys

As I Am: 音楽: Alicia Keys

今振り返れば、彼女の1st*1は、曲調にせよ歌い方にせよ、相当バラけていて、全然定まっていなかったのです。 歌い手の個性や感情よりも、様式を優先させてしまう(所謂)「ソウル・ミュージック」じゃなかったし*2、逆に言うと、それが得難い個性だったし、これからの未来も感じさせたし、故に素晴らしかったと思うのです。 2nd*3で、あえて「ソウル・ミュージック」の様式に正面から飛び込んで'You Don't Know My Name'や'If I Ain't Got You'と言う名曲と、ヴォーカルの機微を会得した彼女。 このアルバムは、「ソウル・ミュージック」の縛りを一旦開放し、元々持っていたミュージシャンシップと独自性を、更に進化/深化させた、と言えるのでないでしょうか。

お約束のクラシカルなピアノインスト#1.'As I Am(intro)' 〜 ('Girlfriend' / 'Karma'路線の)Hip-Hop色濃い重たいボトム/アタックの効いた#2.'Go Ahead'は、お約束のツカミですが、それ以降は、もう様々な音楽要素が渾然一体となった、「Alicia Keysの音楽」としか言いようのない楽曲で埋め尽くされているのです。

後期Beatlesっぽい#3.'Superwoman' 〜 '70sのStevie Wonder風味のアナログシンセがうねる#4.'No One' 〜 Princeを下敷き*4にした#5.'Like You'll Never See Me Again'で、いきなりクライマックスを迎え、その後にも、#9.'Teenage Love Affair'や#11.'Where Do We Go from Here'のように印象的なメロディを含む楽曲を経て、#12.'Prelude to a Kiss' 〜 #13.'Tell You Something (Nana's Reprise)' 〜 #14.'Sure Looks Good to Me'と言うドラマティックな曲3連発で大団円を迎えるのです。

聴いて感じたのが、歌の力強さと生々しさ。 ヴォーカルに、かすれやぶれなど、所々不安定に感じる箇所があるのですが、これは敢えて残したのではないかと思う位、楽曲の魅力となっているのです。 また#9のようにスィートソウル*5を下敷きにした楽曲に、あえてソウルっぽくないメロをあてはめてみたり、#11のように古いソウル経由したHip-Hop*6を、もう一度ソウル仕立てに戻してみたり、と言う、一手間かけた工夫が随所に光る感じ。 だから、パッと聴く限りでは、Hip-HopらしさもR&Bらしさも希薄なのですが、Hip-HopもR&Bも通過して、その根源にある(様式でない本物の)「ソウル」に辿り着いている感じがしますね。

1stを聴いた時に感じた、誰にも似ていない音楽と表現が出来る一人独立したミュージシャン、としての感覚はそのままに、ヴォーカル表現の強さと、曲作りのヴァリエーションを得て、更なる高みに到達した感のあるアルバム。 誰の真似でもない、おもねってもいない、高潔な感じすら漂うこの作品が、チャート初登場1位。 ミュージシャンが感じるままに作って、それが良い作品として世に認められて、売れる、こんなシンプルなことが非常に困難な時代に、これは奇跡じゃないかとすら思うのです。

*1:"Songs In A Minor"(2001) / Alicia Keys

*2:Alicia Keys - bounce.com 特集より「彼女のスタンスはどこか肉体的なファンク感覚から綺麗に開放されているのが特徴」「伝統の束縛から無意識に解かれている」

*3:"The Diary of Alicia Keys"(2003) / Alicia Keys

*4:'Purple Rain''Diamonds and Pearls''Do Me Baby'も少々

*5:'(Girl) I Love You' / The Temprees

*6:'After Laughter (Come Tears)' / Wendy Reneをサンプルした'Tearz' / Wu-Tang Clan

"Words"(1995) / The Tony Rich Project

Words: The Tony Rich Project: 音楽

The Tony Rich Project名義ではあるけれど、Tony Rich一人で、殆どの楽曲を作詞作曲し、楽器、歌、ハモリを多重録音して仕上げた、まさに“シンガー・ソングライター・アルバム”。

「あまりにも芯が無さ過ぎ」と言う人もいます。 まぁ、全くその通りなんですけどね…。 しかし、いつの時代にもロマンティックな、柔らかい手触りの表現を求める人はいます。 事実、これが出た'95年当時、Hip-Hopは、西海岸のギャングスタ・ラップや、東海岸のプレイヤー・スタンスのラップ(カネとオンナとクルマとシャンペン、のアレ)が全盛、R&Bは露骨かつ即物的な性的表現ばかりで、ブラックミュージック全体が相当荒んでいた時期でもあったし、また一方、ロックの世界でも、オルタナティブ・ロックがどんどん殺伐とした表現に走って行き詰まり、Sheryl Crow*1Lisa Loeb*2等が出てくる時期ともシンクロしていたりもするから、このようなオーセンティックで優しい表現を、アメリカの聴衆は皆、心の底では求めていた結果だと言えますし、ね。

それにしても#2.'Nobody Knows'は今聴き返しても、良いですね。 何気ない日常の一場面を切り取って、ギター一本でさらっと歌って、すぐ盤に閉じ込めたような音楽、そのまんま。 多分、10年後、20後聴いても、同じように良いと思えるでしょう。 それ位エヴァーグリーン度高い楽曲です。

全10曲、40分少々。退屈する前に終わり、「あ、また聴きたい」と思わせる長さも、丁度良くて、「あ、名盤ってこう言う物なのかな」と思ったりもする一枚です。*3

*1:"Tuesday Night Music Club"('93)

*2:"Tails"('95)

*3:2001.06.08に書いた文章を手直ししたものです。

"Dreamgirls"(1982)

Dreamgirls (1982 Original Broadway Cast): 音楽: Original Broadway Cast

映画版のサントラ*1が凄く良かったので、オリジナルの方も買ってみたら、映画版はこっちの完コピだったことが分かった、と言う…。
アレンジを手掛けているのは、David Foster。 '82年のDavid Fosterだから、歌を大切にした、過度にベタ付かず、歯切れ良く、適度にメロウで、適度に芯のあるグルーヴ感で構築されていて、いやー、よろしいのです。

"Dreamgirls"(2006)

Dreamgirls: 音楽: Original Soundtrack

'06年の話題のサントラ。 正直、Beyonceのキャリアアップのためのワンステップ、として作られた感も強いのですが、蓋を開けてみれば、出演陣の持ち味と、脚本、演出、音楽が、(奇跡的、かつ有機的に)噛み合った、一世一代のエンターテイメント絵巻に仕上がったのでした。 この映画によって、Beyonceは、この映画のモデルとなったDiana Rossに比肩する、老若男女白黒問わず愛される、歌って踊って演技も出来る、世界的大スターへの第一歩を踏み出した、と、将来振り返った時、そう言えるマイルストーン的な作品と言えるんじゃないでしょうか。

曲のアレンジ/プロデュースはThe Underdogs。 なのにCDにも、映画の最後のクレジットにも"Music By Henry Krieger"と…。 それだけオリジナルのステージ版の音楽を踏襲している、ってことの証ですかね。 とは言え、音を聴けばすぐ分かる通り、かなり神経を使った仕事だと分かります。

「皆が親しんだステージ版を壊さないように、'60sの雰囲気を今の人間に分かるように、映画のオリジナルを作る」と言うのは、想像しただけで気の遠くなる作業だと思うのですが、彼らはやってのけた、と。 まぁ、正統派ソウルミュージックを生かしつつ、今の音響/タイム感にも耐えられるようにアレンジする、なんて芸当、彼らにしか出来ないんですが。 逆に言うと、今だと、少々ベタに感じられてしまう彼らの曲作りの才も、'60s〜'70s風の音作りの中では、実に映えるんです。

細かいクレジットはWikipedia*1に詳しいので、そっちを見て欲しいんですが、この映画のために作られた曲がとにかく素晴らしいので、是非2枚組みの完全版を聴いて欲しいですね。 劇伴とは言え、聞き逃し厳禁な、良い曲、良い声、良い歌、それを支える堅実なアレンジ、とっくに失われてしまった、オーソドックスなソウルが、現在に生き返った、と言いたくなる程です。